8月の終わり、夏はまだまだ続きそうな気がしたけれど、カレンダーをめくればやはりきちんと秋が来る。
まだ半そでで過ごしてはいるけれど、少しやさしくなった日差しも、風のにおいも、東京はすっかり秋色だ。
夏休みの間、暑すぎて日中はほとんど出かけられず、息子とプールばかり行っていた。
プールも陽射しが暑いので、日が暮れ始めてから出かけ、大きなスタジアムライトで照らされた水の中を泳ぐ。
そんなことを、週に2~3回はしていたので、息子は極端な運動不足にはならなかったと思うけど、涼しくなってきたので、週末は公園遊びや散歩に連れ出したくなってきた。
先週は、家から少し離れたところにある、ポニーがいる大きめの公園に誘ってみた。最後に行ってからもう1年以上は経っている。
直線距離なら家からそう遠くはないのだが、徒歩では遠すぎ、位置的に微妙で、電車を乗り継いで家から30分かかるのだ。
公園に着くと、まずはポニーに乗るチケットを2枚買った。ほんの25メートルほどの距離を往復で引いてくれるだけなので、あっという間だ。
待つ列もそう長くなく、息子は2回乗り終えると、「次はボート」と池のほうへ向かった。
途中、モルモットやうさぎがいる、ふれあいコーナーがある。前に来たときは、ここで長いことモルモットを抱っこしていた。
「行かないの?」と訊いたが、息子は「だいじょうぶ」とさっさと素通りする。
ふれあいコーナーには、以前、人間で言えば100歳に近そうな犬もいたのだが、横目で覗くと、犬の姿も犬のための赤いざぶとんもなくなっていた。
ボートは手漕ぎで、漕ぐのはいつもわたしの役目だ。
ひさしぶり過ぎて、オールをどちら周りに漕げばよいのかわからなくなってしまった。
なんとか乗り場から離れてしばらくすると「ぼくも漕いでみる」と言うので、座る場所を交換する。
位置が変わると、息子にもどちら回しと言えば良いのかまたわからなくなって、「あ、こうだよ。違った、こうかな?」なとど手を取っていたら、すぐに「もういい」と止めてしまった。すぐに教えようとせずに、しばらく放っておけばよかった、と思う。
また位置を代わり、バッグの中におやつがあるよと言うと、息子は一瞬ふしぎそうな顔をしたが、「食べる」と言ってバッグを漁り九州銘菓のおまんじゅうを取り出した。以前は、ボートの上でおやつを食べるのが小さなこだわりだったので、出がけにひとつ放り込んできたのだが、そのこだわりはもう忘れていたらしいなと、おまんじゅうをほおばる顔を見ながら思った。
30分が経ち、ボートから降りて「次はどうする?」と尋ねると、息子は「もう帰ろう」と言って出口を目指して歩きだす。「え、もう? 遊具とかは?」と訊くと、息子は池の向こう側のすべり台や砂場のあるコーナーに目をやった。小さな子ども達が遊んでいるのが見える。「大丈夫」。
「まだ来たばっかりなのに? 1時間も経ってないんじゃない?」と食い下がると「ぼくには十分長い時間だったよ。ポニーに2回乗って、ボートも乗ったし」などと言うので、しかたなくまた、駅を目指して歩きだした。
前回来たときは、あの遊具コーナーの近くにあった大きな切り株の割れ目に、どんぐりを転がして遊んでいたな、と思う。
池には小さな橋がかかっていて、渡るととても小さな神社があって、橋の上から池を眺めたり。ただ散歩するだけでも、いつまでもいられたのだ。
でももう、息子は小学3年生。そういう遊びをする年ごろではなくなってしまったんだろう。
考えてみると、ポニー乗りにも、ふれあいコーナーにも、遊具にも、いるのは未就学児かせいぜい小学校低学年の子たちだった。
ポニーには中学生以下が乗れるのだが、今日も並んでいる子たちの中で、息子が一番大きかった。
ポニーどころか、親と公園に来るなんてきっともう終わりかけなんだろうな、と気がつく。
公園だけじゃなく、一緒に出かけてくれるのも、せいぜいあと3年くらいなんだろう。
ふと、昔のことを思い出す。
子どもの頃、週末になると、母親が「ドライブに行こう」と言い出して、家族で出かけていた。
市街地を抜けてしばらく走り、山道に入る。どこか眺めの良いところで車を止めて、しばらくぶらぶらと歩き、道の駅のようなところで母が野菜などを買い物をして戻ってくる。日帰り温泉に寄ることもあった。母には楽しいお出かけだったのだろうが、中学生にもなると、窓の外に続く変哲のない緑をぼーっと眺めながら家族とは関係のない、自分の世界のことについて物思いにふけっているだけで、後部座席に同じく大きく成長した姉と弟と並んで座っているのも狭苦しく、あるときから「家にいる」と言うようになった。
行かないというと母は残念がり、「紅葉を見に行こうよ。きれいだよ」などと尚も誘ってきたが、「葉っぱなんか見てどうするの」と答えた。赤く色づいた葉っぱなんか、見ようと思わなくてもいくらでも家の周りにあるし、わざわざ出かけて見たければ勝手に見てきて、と思っていた。息子にも、遅かれ早かれそんな時期が来るんだろうなと思う。気持ちはわかる。そして今なら、母の気持ちもよくわかる。
息子は一人っ子のせいか、まだまだ甘えん坊だ。
外を歩けば自然と手をつないでくるし、わたしが猫達に甘い声でささやいて撫でまわせしていると、「ぼくも」とすり寄ってきたりする。
「一緒に遊ぼう」と誘われることもよくあるが、家にいると家事に追われていて「あとでね」と言うことが多い。
もう身長は130センチもあるのに、あまりにベタベタとまとわりついてくるのでうっとうしく、「やめて」と怒ってしまうこともある。
でもきっと、こんな日々をたまらなく懐かしく思う日がきっと来るんだろうな。
家事なんていいから、一緒に遊べばよかったと思うんだろう。
自分より背の高くなった息子を、抱きしめたいと思っても、手を触れることさえ躊躇わないといけなくなって、怒ったりしなければよかったと思うんだろう。
せつなくなって、今のうちにたくさん遊んでおこうと思った、帰り道だった。
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